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ペン1本持って大学入試の試験場に現れた男

私が大学を受験した時の話です。試験開始の1時間ほど前には試験会場に到着し、中島らもの『超老伝 カポエラをする人』を読んでいたのです。それはそれとしまして、だんだん試験会場に受験生が集まってくると、やっぱりなんとなく緊張するんですね。「こいつら、みんなライバルだ……」「どんな勉強をしてきたんだろう……」周りを見渡して、なんとなくドキドキするのです。カバンから分厚い参考書を取り出す人、単語カードをペラペラと見返す人、辞書を眺める人、それぞれ最後の追い込みをしています。『超老伝 カポエラをする人』を読みながら、こんな本を読んでいて大丈夫だろうかと心配もするわけですが、今さら何をやっても一緒だという気がしないでもないというか。もちろん、私のカバンの中には参考書なんかも入っているんですよ。

そんな中、もうすぐ試験開始ギリギリという時間に、ペン1本持って現れた男がいたのです。カバンも持たず、手にしているのはペン1本だけ。すごい男が現れました。威風堂々としていて、自信の塊のような表情をして、猛者と呼ぶにふさわしい風格。

『超老伝 カポエラをする人』をカバンにしまい、私よりも前の席に座った男を見ていたのですが、何をするでもなく、ペンを握りしめながら、ただただ試験開始を待っている様子でした。

この時点ですでに、話のオチはわかっておられると思いますが、気にせず続けます。

試験が終わり、その男は何も言わず、ペンを握りしめて去っていきました。声をかけるとか、そんなことはできるはずがありません。ただ、ものすごい男がいたというのは意識の中に強烈に残っています。

そして、その男に会うことはなく、今に至ります。

話は変わりますが、運転免許証を取りに試験場に行った時のこと。今で言うところのウェイウェイした若者の集団が試験会場にいました。そして、試験が終わり、合格者が再び集められた時、ウェイウェイした若者の集団はいませんでした。そういうことです。

なんだか、ものすごくもんにょりするのですが、事実なんだから仕方がない。ペン1本握りしめて試験に臨んだあの男が今、どこで何をしているのか。たぶん、今もペン1本でどこかで戦っているのではないでしょうか。合掌。